■前回に引き続き長男考察。無謀にも長男視点。ある意味超過した能力を持っていたであろう長男、あ、私は志摩家全員あほ説を押してみています。賢い柔兄も根本あほやとおもうねん。





   青い夜に向いた長男



ああ、至極馬鹿らしい話だと思った。
結局俺は何一つ持っていなかった。血も力も才能も全く意味を成さなかった。

生憎俺は勉強の出来が悪かった。いや、弟達も、きっと妹たちも勉強はからっきしだった。お母の頭の良し悪しは知らない。お父はどうだろうか、今きっちり任務をこなしお経などの詠唱も難なくこなしている。ただ、俺はきっと相当なアホだったと踏んでいる。きっと、それこそ血を吐く思いで必死に。
というのも、俺はお父とまったく似ていなかった。俺はどうしてもそういう事に必死になれなかった。必要だから、と本気になれなかった。本当に必要ならば後についてくるものだろうと。他にも、俺には執着するものがあげれない。それを恥じたことはなかった。
明陀、志摩。そういったものにこだわりはなかった。使命感も、そうなかったのだと思う。いつの間にか染みついていたそれは、長男という肩書の元、ずっとのしかかっていた。振り切る術は知らなかった。体中を巡る赤は鉛だったのだ。意識の執着がなくても、俺はここ以外、ない。
妬み。ただ一言で表現できた。
無くなれば、俺はもっと好きなことができた。じゃあ好きなこととはなんだ。それすらない。それすらないのはなぜだ。結局はこの血のせいではないか。

ただし、腐っても志摩、幼少のころから叩き込まれた体術だけは、俺のものだといえるだろう。
それこそ今では大家族の志摩だが、俺にも確かに一人っ子の時期があった。それはすぐに崩れたけれど、次男が生まれてもなお数年は、お父は俺だけのものだった。手合せしてくれるお父はただの父で、志摩の頭ではなかった。内心は志摩の跡取りの為の教えだったのかもしれないが、そもそも頭より体を動かす方が性にあっている。
それから妹、弟と続いて生まれて。明陀の傾きは加速して。こんなものを受け継がねばならないのか。

しかし、それだけは口に出せなかった。
出してもよかったのかもしれない。一度出たそれは、それから止まることなく全てを吐き出してしまいそうだったけれど。
そう、志摩なぞ、とお父に言えば、どんな顔をしただろうか。志摩や明陀の歴史を語られたかもしれない。はたまた、受け入れられたのだろうか。次男三男、妹たちの入り婿、生まれたばかりの四男もいる。俺が気張る必要はない。だろうと思うのに、抗えないのは本能。

「矛兄?」

そう顔を覗き込んできたのは次男、柔造だった。
眉間の皺が深くなる。この賢い次男、こいつこそ、跡取りの器量を持ち合わせているのではないか。
俺と同じく勉強はできる方ではないのだ。しかし何故か努力家で、きっと親でさえ「この子は賢い子や」という扱いをしている。根本はアホ。努力しかない。
この次男は俺の事を好いていないだろう。何しろ、俺が柔造の事を好いていなかった。何しろ性格が合わない。その癖にこいつは喧嘩っ早く、それが正義感からくるものだと知った時、思った。

俺の居場所はどこだ。

弟はいつからこうなった。これでは本当に、志摩の跡取りは柔造ではないか。柔造が望めば、俺もこの様だ、お父も柔造を選ぶだろう。
そうなってなお、俺は執着を持てなかった。嫌気だけが増す。
執着を持たないのなら嫌悪も捨ててしまえばよかったのだ。

ふと見た次男の顔は、お父によく似ていた。とても似ていた。
いや、違う。どこかで見たことがあるのだ。眩暈がした。視界の色が薄らんで、ようやく気付いた。ああ、父の幼いころだ。そのものだった。

居間から泣き声がする。金造のだ。柔造はすぐに今へと消えていった。きっと金造は柔造を父のように慕うのだろう。俺はどうしても一歩引いた所にいた。
三男が自室に入ってきた。ノックなど、この年齢の子供に存在しない。それはもはや日常だった。
「矛兄、顔怖いで?」
「・・・そうか」
この弟は、これまた勉強はできなかったが、賢くないといえば嘘になる。感情コントロール、社会性、上手く立ち回り面倒事は避ける。この三男が自分に懐いているのは知っていた。羨ましくも感じるそれを、自分は独占していいような気もしていたのだ。
「こっち来ぃ」
手招きをすると、素直に歩みを寄せてくる。あざとく、きっとここで甘えておけば違いないと思っているのだろう。それでもいい。
頭をかき撫でて抱きしめると、ほんのり暖かかった。

志摩など関係なかったら、弟達を、家族を守ることに嫌気はなかっただろう。それは父性本能とでもいうのだろうか。
しかし、俺にはそれ以上に。
この伝わる心音すら憎くて、このせいで俺は、守りたいものすら憎くて仕方ない。

今夜の月は青い。